卒論等を引用してはいけない理由

 しばらく前,僕が末席を汚しているところの某学会誌の編集委員会にて,卒論・修論や講演要旨を引用文献として認めるか否かという話があった.ほとんどの委員が「認めない」方向で一致し,最終的には「編集委員会が特別に認める場合以外は卒論・修論の引用はダメ」ということで落ち着いた.
 おもしろかったのは,認めない理由がいろいろあったこと.
 まず“アクセシビリティが担保されないこと”を理由とする意見があった.たしかにアクセスできない文献を引用されると査読者も読者も困る.
 それから,“科学としての信頼性が担保されないこと”を理由とする意見があった.僕の意見は主にコレだ(っていうか,大学院のときに師匠からそういう教えを授かった).卒論や修論や講演要旨は科学ジャーナルが通常おこなうような査読(ピアレビュー)を経ていないので,それを科学的知見としてみとめるのは問題がある,信用できねぇというもの.信用できないものを引っ張って論を立てるのはまさしく砂上の楼閣.
 もう一つは,僕にとっては目ウロコだったのだけど,いわれてみればもっともな意見.“卒論・修論・講演要旨を引用可能な文献と認めるということは,本学会誌では卒論・修論・講演要旨を既発表論文と見なすということと同じ.ということは,本学会誌では卒論・修論・講演要旨で発表された内容のみからなる論文は二重投稿扱いになって掲載できなくなる”というもの.これは,卒論・修論・講演要旨の著者にとってずいぶんと不利なことになるので,そんなん認めたらあかんやろ,という意見.なかなかおもしろくない?この視点.