communityとassociationと群落と群集と群集

 生態学では,同種生物の集団を「個体群」といい,同じ空間にある複数種の個体群の集合を「群集」または「群落」と呼ぶ.群集も群落も「community」の訳語であるが,「群集」は主に動物のcommunityに使われ,「群落」はもっぱら植物のcommunityに使われてきた.しかし,最近では,動物でも植物でも「群集」を使う例が増えつつあるようだ.
 ところで,植物群落を(そこに含まれる植物の種組成にもとづいて)体系的に分類する「植物社会学」という分野がある.その分野では,その体系の下に位置づけられ記載されたcommunityの類型をassociationと呼ぶ.*1このassociationの訳語が「群集」である.植物社会学やそれに近縁の分野である植生学(これらはいずれも生態学に含まれる分野である)では,communityを「群落」,associationを「群集」とよび分けている.
 こんなわけで,かつては,植物の集団に対して「群集」を使うときはassociationを意味していたが,最近では「群集」と聞いただけではassociationかcommunityかよくわからん,という事態になっている.
 この混乱を避けるにはどうすればいいのだろう.「『群集』という言葉はassociationの訳語として定着しているので,植物のcommunityを指すときは『群集』ではなく『群落』を使ってください」と主張しつづけ,それを浸透させるというのはひとつの方法だ.が,そもそもassociationに群集という訳語を当てたのが混乱のもとになっているようにも思える.だから,ここは「associationに群集とあてたのは具合がわるかったです.これからはassociationの訳語は**に変更しましょう」といって,植物社会学の用語に革命を起こすのがもうひとつの方法だ(実際にそれができるかどうかは別にして).
 植物と動物とで異なる表現を慣習的に用いてきた場面で,だんだんと統一が進んでいる.たとえば,「成長」と「生長」は時間をかけて「成長」に統一されていくように思える.「生息」と「生育」についても,最近は植物に「生息」をつかう例をみかける.が,「群集」はassociationの訳語として定着しているだけに,植物のcommunityにそれを使うとどうしても混乱を避けられない.

*1:たとえば,瀬戸内地方と他の地域のシイ群落(シイ林)とを比較すると,瀬戸内のシイ群落にはよく出現するが他地域のシイ群落ではあまり出てこない植物が何種類か見出される.このとき,瀬戸内のシイ群落はそれらの植物群の存在によって特徴付けられるassociationとしてまとめることができる.特徴的に出現する植物の1つであるカナメモチの名をとって,瀬戸内地方の典型的なシイ林は「コジイ−カナメモチ群集」と名付けられ,植物社会学の群落分類体系の中に位置づけられる.