砥峰の山焼き

 課外授業で砥峰高原の山焼きを見に行った.
 山陽道から見える山並みでは,コナラの芽吹きがはじまっている.ヤマザクラは盛り.
 播但道に入って市川に沿って北上すると,コナラの芽吹きがだんだんみられなくなる.標高はそれほど変化しないのだが,内陸へ向かうだけでそのようになる.
 神崎南ランプで播但道を降り,JR播但線に沿って「寺前」から「長谷」へ.長谷から犬見川沿いに標高をかせぐ.一気に800mくらい.上の方はタムシバが盛り.犬見川の上をイワツバメが飛び交っていた.

 
 ここの山焼きは,「とのみね自然交流館」という建物の前につくられた観覧席(階段状のウッドデッキ)から観覧するようになっている.他の場所からでもいいのだけど,ほとんどの人がここから見る.観覧席の真正面には,ススキ草原を背景にちいさなステージがあって,ガムランや和太鼓の演奏もある.火を背景に,音楽もたのしめる.ふしぎな山焼き風景だ.もともとは生業の一環だった山焼きを観光資源として活用しているため,このような山焼きになっている.翌朝の神戸新聞によると集客は2500人とか.もうちょっと少ないように感じたが,いやいや,本当はそのくらいいたのかも知れない.


 山焼きが始まるのは午後2時.それまでの間に草原を一回りする.ちいさな沢が何本か流れている.のぞくとタカハヤかアブラハヤかわからないが,そのような魚がいる.ススキは積雪があったためだろう,大半の場所で地面になでつけられている.穂をよくみると,ススキとトダシバが優占しているようだ.地面になでつけられたススキをかき分けると,ヨモギやアザミなどの葉っぱがみえる.草原ではあるが,少しは木本も点在している.樹高が2m程度の樹木は細い枝を密生させるかわった樹形になっている.毎年の火入れで新芽を焼かれるためだろうか.
細い枝を密生させる樹形
 ミズナラやクリ,ヤマボウシなどのうち,樹高が十分に高い個体は,新芽が火入れの影響を免れるからか,ふつうの樹形だ.「逃げ切った」という感じ.大きな木は谷状の場所に主に分布している.広島の深入山もそういう傾向があって,それを見学したときは,残雪のあるときに山焼きをしたりすることがあり,谷状地は火入れの影響を免れて木が残ると聞いたように記憶している.


 火入れ時刻が近いからか,ジェットシューターを背負った人が登っていくのがみえる.また,火をたたいて消すホウキのような道具をもっている人もいる.この道具の名前をたずねたところ「ホデクボーと呼んでる」とのこと.ボーは棒であろうか.ホデクは,もしかしたら火をたたくとか火を消すとかいう意味の動詞か?先端部は稲藁だそうだが,柄の部分を何の木でつくるのかは聞きそびれた.直径3cmくらいで長さ2m程度のまっすぐな,樹皮もついたままの木をつかっている.
ホデクボー


 午後2時,火入れがはじまる.はじめは遠く,山の上のほうから,防火帯に近い側を上から下へゆっくりと焼く.周囲の森林と近いからか慎重だ.とても地味だ.こんなんなのか?音楽はガムランののんびりしたもので,癒し系山焼きというか,なんとも元気がない.
火入れ序盤


 しかし,森林の近くを焼き切ってしまうとだんだんと火入れが大胆になる.ときどき下方から焼き上げるように炎が入り,黒煙を上げて大面積が一瞬で燃え尽きるようになる.大きな火の手があがると歓声がわく.炎が地面に広がる.演奏はガムランから和太鼓に.
火入れ中盤


 最後は観客席の近くに一気に火が入る.少々離れていても熱い.ススキの焼ける音もすごい.観客総立ち!ここに来て,はじめはちまちましていた山焼きが一気に盛り上がり,うちの学生たちもおおはしゃぎで炎をバックに記念写真をとったりする.山焼きがつくる上昇気流に吸い寄せられて観客席まわりは突然強風がふきつける.おおきくてはげしい対流の中にいる感じだ.もうお祭り.はげしい.ちょーはげしい.
火入れクライマックス


 しかし目の前の草原が燃え尽きると風もぴたっと止み,いつしか和太鼓も止んでいて,唐突にお祭りはおわる.目の前には,さっきまでは枯れ草色だった草原が真っ黒に変わり果て,ところどころから白い煙や湯気がたなびいているだけ.
火入れ前と後
おもしろかったー.