野で焼くことを禁止する法律は野を焼くことを禁止しているか?

 2000年に法律で野焼きが禁止されたことで、植生管理のための火入れもやりにくくなったような気がしていたのだけど、ちょっと違うかもしれない。これまで僕は、「野焼きは法律で禁止されてるけど、“農林業関係の野焼き”“風俗慣習上の野焼き”は例外として認められてるから、野焼き(草原の火入れ=野を焼く)は全国各地で実施できてるんだろう」くらいの認識をしていた。けど、なんか違うような気がしてきた。この法律は廃棄物処理法のことで、廃棄物の焼却に関する規定として野焼き(廃棄物の野外焼却=野で焼く)を禁止してる。一方、野を焼くときに燃やしているものは、野で立ち枯れている草であり、地面にふりつもった自然の落葉落枝であって、これらははたして廃棄物か?土手で草刈りをして、刈った草をあつめたら、それが廃棄物だというのは理解できる。けど、自然にそこにある生き物の残骸は廃棄物とよべるのか?というわけで、表題の疑問である。廃棄物処理法は野で焼くことを禁止しているが、野を焼くことを禁止してるのか、気になる。
 以下、法律についてちょこっと覚書。

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 1990年代の後半、たき火や野焼き(ゴミの野外焼却)がダイオキシンの発生源だと騒がれていた(その当時に書かれたウェブ上の記事から当時の雰囲気が伺える。たとえばこれ)。その流れで「廃棄物の処理及び清掃に関する法律廃棄物処理法)」が2000年に改正された。
 廃棄物処理法の2000年の改正で盛り込まれた焼却禁止の条項は、第十六条の二である。

 (焼却禁止)
第一六条の二 何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
一 一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従つて行う廃棄物の焼却
二 他の法令又はこれに基づく処分により行う廃棄物の焼却
三 公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの

 
ここで、政令で定めるものを除くとしているので、政令も見てみる。廃棄物処理法に係る政令廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」の第十四条に、焼却禁止の例外について書かれている。

(焼却禁止の例外となる廃棄物の焼却)
第十四条  法第十六条の二第三号 の政令で定める廃棄物の焼却は、次のとおりとする。
一  国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却
二  震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却
三  風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却
四  農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却
五  たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの

 
これらが何を想定したものであるかは、法律が改正されたときの通達「廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律の一部を改正する法律の施行について」(環境省2000年9月28日)に詳しく書かれている。

第一二 廃棄物の焼却禁止
 一 焼却禁止の規定は、これまで行政処分では適切な取締りが困難であった悪質な産業廃棄物処理業者や無許可業者による廃棄物の焼却に対して、これらを罰則の対象とすることにより取締りの実効を上げるためのものであることから、罰則の対象とすることに馴染まないものについて、例外を設けていること。
   したがって、焼却禁止の例外とされる廃棄物の焼却についても、処理基準を遵守しない焼却として改善命令、措置命令等の行政処分及び行政指導を行うことは可能であること。
 二 一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従って行う廃棄物の焼却とは、これらの廃棄物の処理基準を遵守して焼却されることをいうものであって、焼却を行った者に処理基準が適用されるか否かは何ら関係ないものであること。
 三 他の法令又はこれに基づく処分により行う焼却としては、家畜伝染病予防法(昭和二六年法律第一六六号)に基づく患畜又は擬似患畜の死体の焼却、森林病害虫等防除法(昭和二五年法律第五三号)による駆除命令に基づく森林病害虫の付着している枝条又は樹皮の焼却などが考えられること。
 四 国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却としては、河川管理者による河川管理を行うための伐採した草木等の焼却、海岸管理者による海岸の管理を行うための漂着物等の焼却などが考えられること。
 五 震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却としては、凍霜害防止のための稲わらの焼却、災害時における木くず等の焼却、道路管理のために剪定した枝条等の焼却などが考えられること。
   なお、凍霜害防止のためであっても、生活環境の保全上著しい支障を生ずる廃タイヤの焼却は、これに含まれるものではないこと。
 六 風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却としては、どんと焼き等の地域の行事における不要となった門松、しめ縄等の焼却が考えられること。
 七 農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却としては、農業者が行う稲わら等の焼却、林業者が行う伐採した枝条等の焼却、漁業者が行う漁網に付着した海産物の焼却などが考えられること。
   なお、生活環境の保全上著しい支障を生ずる廃ビニールの焼却はこれに含まれるものではないこと。
 八 たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なものとしては、たき火、キャンプファイヤーなどを行う際の木くず等の焼却が考えられること。

ここでは、風俗慣習上の例外も、農林業関係の例外も、どっちも野を焼くことは想定されていなかった。それで、廃棄物ってそもそも何かが気になるので、もういちど廃棄物処理法をみてみる。

(定義)
第二条  この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。

 
政令やらいろいろみて例外のことをしらべたけど、それ以前の問題だったかもしれない。どうも野で立ち枯れた草や、地面に降り積もっただけの落葉落枝は廃棄物ではなさそうだ。ということで、やっぱり野で焼くことは禁じられているけど、野を焼くことはこの法律の範囲外のように思える。「野焼き」という言葉が同じなだけで、野外焼却は禁止されてるけど、草原への火入れはぜんぜん関係ないんじゃないか。いまさらこんなこと書いてるのは周回遅れかもしれませんね。