でっちしば、コイ、植林の目的

 町内会の会合にでてくるのは各戸の主である。このため町内会の出席者はたいていおじいちゃんかおばあちゃんだ。うちの家ではいちばん年上の僕でも40代(四捨五入したら50)なので、いつも町内会では最も若い出席者である。一番年配の出席者は僕のほぼダブルスコアだ。町内会には昔のことをよく知るひとがたくさんいるので、雑談で聞こえてくるお話はいつもすごくおもしろい。
 隣保のS子おばあちゃんはイヌツゲのことを「でっちしば」と呼んでいた。こんな、ググっても出てこないような方言を拾えたときはとてもうれしい(「日本植物方言集成」にも採録されていなかった)。それから、シイタケのほだ木の話をしてたときには、クヌギやコナラでつくると肉厚のシイタケができるけど、ばべ(ウバメガシ)でつくるシイタケは薄い、と教えてくれた。
 Aさんは田んぼのコイの話をしてくれた。昔、まだ田んぼに肥料としてニシンを入れていたころ、田んぼにコイを放して養殖していた。コイは役場があっせんしていて、たしか明石の水産試験場から買っていた。金魚すくいの金魚くらい小さいコイを田植えのころに田んぼに放しておくと、夏に田んぼの水を落とすころには5〜6寸くらいになっている。これをこんどはため池に放すと、そこからぐっぐっと一気に大きくなった。池のコイは、泥流し(かいぼり)のときに捕まえる。池に放した数に応じてコイを持って帰って食べていた。田んぼに何匹くらい放していたのかを聞いてみたけど、そこはよくわからなかった。5匹や6匹ではないとのことだった。田んぼでサギやカラスに食われて減ると言っていた。田んぼのコイについては、2012年度にうちの研究室にいた学生も聞き取り調査で記録していた。同じ話題であっても、ちがう人からも聞ければやっぱりそれは面白い。場所や時期に関する情報が増えることになるから。
 “役場があっせん”繋がりで、スギやヒノキの話になる。山に植えるためのスギ・ヒノキ・マツの苗も役場のあっせんで購入してたという(役場の部署を聞くのを忘れてた。また聞かねば)。「でも、このへんにスギ植林はみかけませんね、どこに植えたんですか」と問うと、少し離れたところにそれぞれの山があって、そこに植えたのだそうだ。「常隆寺にあがっていく道のまわりとかに植えたんや。あのへんはスギがあるやろ」「スギは60年で材木にできるんや。家も60年くらいで建て替えるやろ。そやから、子供や孫が家を建て替えるときに使うたらええと思てな」どのくらいの量を植えたのか、詳しい話はまた追加で聞いておきたいところ。拡大造林では林家が業として植えていたことを想像してたけど、それだけじゃなく、農家が自家消費のために植えていたのもけっこうあるのかも。
 スギの話題から、昔の家をたてるときの地松の話になる。大工さんが手斧(ちょうな)で松の皮をはいで丸太にしてつかったこと、いまの大工さんは手斧を使えない人も多いこと、曲がりくねった松の丸太にあわせて大工さんが束(つか)の長さをうまいこと調整して梁にしていたことなど、いろいろな話がとびかっていた。僕がおもしろがってメモをとっていたら(4人くらいがいっせいに話してくれたのでメモもとりきれないのだけど)、「そういうのが好きやったら、うちに見にこい。柱や梁をみながら木の名前も教えたるさかい」と言ってもらえた。ぜひ学生をつれて見に行きたい。