やんばる樹木観察図鑑

 琉球の植物を同定するときは「琉球植物誌」(初島1975)を使うが,この本には図版がほとんどないので他の図鑑等でイメージを補わないといけない.だから琉球の植物の写真が載っている本をみつけたら買わないといけない.
 「やんばる樹木観察図鑑」という本があるのを11月調査にいっしょに行った方から教えてもらった.年末にジュンク堂のネット通販で発注し,昨日とどいた.amazonでは扱ってなかった.2010年9月に第1刷,2011年5月に第2刷が出ている.第1刷は自費出版だったそうで,ぱる3企画というところが発行者.第2刷は沖縄教販が発行者となっている.沖縄は自費出版が盛んだそうだ.
 この本は国頭でみられる樹木を中心に178種を扱い,1種ごとに見開き2ページを使って4枚〜9枚の写真を載せている.写真は,遠景・枝葉のアップ・花・果実・樹皮・芽・葉の裏・芽吹きなどを必要に応じて選んでいるようだ.これは役立ちそう.説明文はあっさり控えめで1行か2行しかない.ほとんどの種類に「食餌とする昆虫等」が書かれているのはおもしろい.
 いくつかの種類は僕の思ってたイメージとちがっていておどろいた.たとえばハマヒサカキ.知ってるハマヒサカキとずいぶん違うが,説明文をよむと枝葉・樹形は変異が多く見わけるのが困難と書いてある.そうなんか.しらんかった.じゃあ前回調査でO谷さんがハマヒサカキって言ってたのは合ってたかも.
 著者はものすごくこだわりのある上品な方らしい.種名は「琉球植物目録」(初島・天野1994)に従ったとしながらも掲載種のうち3種はあえて和名を変更している.ミフクラギをオキナワキョウチクトウにしているのはよく聞く別名だからよいとして,アオバナハイノキは青鼻を垂らした子どもを連想させて不作法だからという理由でムラサキハイノキに,ショウベンノキはそんな名称は不届きだからという理由でトキワミツバウツギにしてる.理由がおもしろすぎる.さらにあとがきには「他にも一体どうしてこのような名前をつけたのかと,また改称することなく唱え続けているのかという,斯界の見識を疑っている名称がある」として,ヘクソカズラママコノシリヌグイイヌノフグリの3種をあげ,ママコノシリヌグイに対しては「ナツノウナギツカミの溢れる野趣と比較するのも恥ずかしい」と評し,イヌノフグリに対しては「殆ど死語とはいえ,犬の金玉!と呼ぶのは耐えられない」とこきおろす.本書の最後の1文は「適切な呼び名とする運動が活発化することを望みます」だ.何の本だこれ.
 はしからはしまで楽しんで読んでいたら背表紙の糊がばりっとはがれて中身が2つに割れた.接着不十分だったようだ.もともとホットメルトで製本されていたので,そのまま簡易製本機で加熱したらなおった.丈夫になって安心.
 
 この本とおなじような体裁とコンセプトで,「やえやま樹木観察図鑑」というのがあったらええのになあ.