地図にのってない地名,字より下位の地名,もっと下位の地名

 たとえば,淡路市(旧東浦町)の浦という字.字の下位には番地が割り振られている.このため郵便のための住所では字より下位の地名は使う必要がない.おそらく住民票にもつかわれていないと思う(少なくとも,僕の住所は字より下位は番地表記となり,下位地名があるにもかかわらず住民票に載っていない).しかし,地元の人は,いまも字より下位の小字と思われる地名(いのうえはま,いのうえそら,えどう,など)を日常的に使っている.この小字であろう地名はいくつかは地図に示されているが,いくつかは地図に載っていない.
 たとえば,淡路市(旧北淡町)の黒谷(くろだに)という字.字内のほとんどの場所は,(地図上)字の下位は番地表記があるだけだが,唯一,五斗長(ごっさ)という区域だけは字より下位の地名として地図に載っている.さらに,五斗長の地元の人は,実は五斗長の下位にも地名を持っている.このおそらくは小字よりもさらに下位に位置すると思われる地名は,どの地図をみても載っていない.
 地図に載っていない地名で,しかも郵便や住民票に使われない地名は,人の入れ代わりが激しい地域だったら早晩消えてしまうことだろう.人の入れ代わりが激しくない淡路でも,ながい年月をかけて薄らいでいくかもしれない.いまのところ,字より下位の地名がしっかりと日常に根づいているのは,地域コミュニティが強固だからだろうと思う.字より下位の地名がもっとも生き生きと使われるのは,お祭りのときだ.それ以外では,農村での共同作業などが下位地名単位で行われることがあるように思う.
 ところで,ここまで,かなり安直に字とか小字などと書いてきているが,地名の階層の深さがもともと一律であったハズがないので,こういう統一的な階層があるかのように地名を眺めること自体がまちがっているような気がする.また,平成の大合併以前にも町村合併がなんども行われていて,合併の際に対等合併やら吸収合併やらスタイルの違いがあるだろうから,そのたびに地名ヒエラルキーは複雑に攪乱されているだろう.字だと思っている地名が,かつては村だったかもしれない.