「環境科学を学ぶ学生のための科学的和文作文法入門」(倉茂好匡,2011,サンライズ出版)

 これはすごい本だ.論文や文章の書き方指南,論理の構成指南の本はこれまでにもたくさん出されている.が,この本は,たぶんこれまでにないアプローチをしていて,むちゃくちゃ実践的で,すっきりと体系的で,わかりやすい.しかも100ページに満たない簡潔さ.これから,このジャンルの定番になるのではないだろうか.
 この本は「ダメな文章」(実際に学生の書いた例らしい)を示し,そのどこがダメなのかを読者に考えさせる“例題”によって構成されている.ただし,やみくもに考えさせるのではない.ダメのパターンが体系化されていて,その体系のもとで考えるように工夫されている.
 ダメのパターンは大きく4つに分けられている.「段落間の論理構成上の問題点」をタイプAのエラー,「段落内の論理構成上の問題点」をタイプBのエラー,個別の文のわかりにくさや曖昧さなどをタイプCのエラー,そして,タイプA以前の「もっと根本的なエラー」をタイプOのエラーとして整理してあり,さらに各タイプを細区分している.
 例題の解答・解説では,どの部分がどうダメであるかを実に明瞭に指摘する.そして,どうすればそのエラーを見つけられるか,エラーに気づけるか,分かりやすくかつ具体的な方法を教えてくれたあとで,ダメ部分の改善の例が示される.
 ダメのパターンが体系化されていることと,それに気づき修正するための具体的な方法が示されている点が,この本の美点である.
 この本は,文章作成指導で苦労をしている教員はぜひ読むべきだ.きっと指導のスタンスが明確になる.僕の場合,学生の論文やレポートをみていると,ワケがわからんものがたくさんあって,添削をするにも,どこから手をつけていいのやら途方に暮れることもしばしばだ.考えてみると,これはタイプO,A,B,Cのエラーをいっぺんに指摘しようとしたためにはまった陥穽であろう(もちろん早い段階ではOやAの指摘を重視しているが,それでもついついBやCにも言及してしまう).そのような方法より,まず1回目はタイプOまたはAのみを指摘して修正させ(BやCはわかっていても触れない),つづいて2回目にB,最後にCというふうに,順を追って指摘をしていったほうがよさそうだ*1.指摘する視点が明瞭になる分,指導される側にも伝わりやすく,また,どのようにして文章をつくりあげていけばよいのかがよくわかるだろう.つまり,後々,学生の身につくやりかたで指導ができるということだ.それに,闇雲にあらゆるエラーを指摘する場合にくらべて改訂回数はすくなく済むのではないかと予測する.
 この本は,また,文章作成を指導される側も読んでおくべきだ.あとがきを読むと,この授業(この本は実際の授業がベースになっている)を受けた学生は,文章のダメさには気づけるようになるが,すらすらと修正できるようにまではならない,そこはさらなる自助努力が必要だ,ということが書かれている.でも,ダメさに気づけるようになるのは,すごくおおきな一歩だ.うちの学生にはかならずこの本を読ませることにしよう.
 滋賀県立大,すごい授業やってるなあ.見学してみたいわ.この本,「寄生虫ひとりがたり」で紹介されていたのを見て知りました.

*1:タイプCのエラーがひどすぎて,タイプOやAの指摘すら困難,という惨憺たる状況を過去に見たような気がしないでもないが,たぶん気のせいだ