祖母が亡くなった

 100才だった.母の母で,僕が中学生のころはうちにいっしょに住んでいた.ちょうど反抗期だったのでずいぶんあたってしまった.その後,祖母は母の姉の家でくらしていた.僕は中学2年だったか高校に入ったころだったか,そのころから自分の家族を疎ましく思うようになって,家族や親戚にあまり会わないようになって,そういう時期がけっこう長く続いた.それで,祖母がどこのうまれだとか,どういう育ちだったとか,ぜんぜん知らなくて,博士課程のときの僕のサイトは徳島県鳴門市にあったのだけど,祖母はそのすぐ近所で生まれ育ったのだということを後になってから知った.知ってからは,その地域の昔の様子を聞きたいと思ったが,なかなか会う機会がないままだった.祖母にときどき会うようになったのはここ数年.もうずいぶん耳が遠くなっていて,あたまはしゃっきりとしていたが,会っているときはどうでもいいような世間話しかしなくて,とうとう聴けなかった.
 考えてみれば,父や母がこどものころの話もほとんど聞いたことがない.ほんのちょっと昔のことでも,意識して聞かないと,向こうも言わないし,こっちも聞かない.どこの家でもそうなのかはわからないが,うちが特別かわっているわけでもないと思う.ほんの数十年前のことがつたわらない.自分が生まれてからのことはよくわかるが,それ以前のことはわかりにくい.直感で理解可能な射程距離はせいぜい数十年.人間はそういう生き物なんだろう.