丹後の海岸

 博物館のK君の調査に参加して,京都府の海岸へ行った.2日間かけて海岸線を7〜8kmほど歩き,植物相を記録した.1日目は暑くて汗だく,2日目は台風15号の影響で風雨にさらされ肌寒かった.
 このあたりは都市から遠く,人口密度が低いおかげだろうか,とてもよい砂丘植生が残されている.砂の移動がはげしそうな砂丘で,コウボウムギやケカモノハシ,ハマゴウ,ハマニンニク,ハイネズなどの群落がよく発達していた.砂丘ではハマベノギクがたくさんの花をつけていた.ウンランが普通にみられるのは瀬戸内側の海岸との大きな違い.瀬戸内のウンランは瀕死の状態だ.ほかに,砂丘に特有のスミレ類がちゃんと生えていたので,これはぜひとも春にも来たい.ネコノシタには,黒地に白いドット柄のきれいな蛾が訪れていた.「Cyber昆虫図鑑 見た目からさがす虫マトリックス」でしらべてみたら,どうやらシロモンノメイガというらしい.左記のウェブサイト,TAKENAKAさんのホームページ経由で知ったが,ほんと便利.
ハマベノギク
ネコノシタを訪花するシロモンノメイガ


 砂の移動が少ないところは風衝草原となっている.その中にトウテイランが咲いていた.いままで栽培個体は見たことがあったが,自生個体ははじめて.あこがれの植物に出会えてうれしかった.トウテイランは,穂状の花序からは想像しにくいが,オオイヌノフグリとおなじクワガタソウ属.花をアップでみたら,なるほど2本の湾曲した雄しべにクワガタソウらしさがにじみ出ている.風衝草原では,このほかに,カワラナデシコツリガネニンジンウツボグサなどの刈り取り草原でよくみられる種が生育していた.カセンソウにも久々に出会えた.
トウテイラン
トウテイランの花.


 砂浜や砂丘の背後の岩崖をみると,てかてかと光っている.崖の上部,岩盤と砂の境目から水がしみ出して,崖全体を潤しているのだ.岩盤の上に砂が積もった地形であるらしく,砂を透過した水は岩盤の上を流れ,崖のところでしみ出しているのだろう.この湿った状態は雨上がりだからというわけではなさそうだ.ミミカキグサやタヌキモ類,カモノハシ,ノハナショウブらしきアヤメ属などの湿性植物が濡れた崖に生えていた.
湧水で涵養される崖


 このあたりの砂浜は鳴き砂で有名だ.歩いてみると,踏みしめた砂がきゅっきゅと音をたてて鳴いた.ほんとにちゃんと鳴いた.おもしろい.ここの海水浴場では,鳴き砂を保全するためにタバコ・花火・バーベキューが禁止されていた.きっと,このような努力が鳴き砂の維持につながっているのだろう.