「めげた」について

 機械などが故障したり壊れたりすることを,僕の育った神戸では「めげる」と言う.過去形は「めげた」である.モノがこわれた悲しみをしみじみと味わいたいときは「あ,めげてもた」と小さくつぶやくとよい.
 一方,モノを能動的に壊すことを「めぐ」という.過去形は本来は「めぎた」であろうが,撥音便で「めんだ」となる.うっかりこわしてしまったことをわびるときは「すまん,めんでもた」と申し訳なさげな声でいうとよい.抑えきれない破壊衝動を発露するときには「おらー,めんでまえ,みなめんでもたれー」と髪振り乱して叫びながら鉄パイプをふりまわすのが吉.
 ぼくの親世代(昭和20年前後に生まれた世代)はふつうに使っていたが,ぼくの世代で使うひとは少ない.でも,機械が壊れたときに「めげた」というのは,いかにも壊れてしまった切なさがただようので,ぼくはときどき使う.

追記:「めんだ」だけでなく「めいだ」とも言っていたように記憶している.