たこいも

 matsut氏のブログでなにやらむちゃな期待をされてしまって焦っています.
 「たこいも」についてはmatsut氏が書いたとおり.北淡路のGという集落で写真をとっていたときに地元のおじさんから聞いたことば.おじさんの家の裏はちょっとした切土の土手(かなり古そうだった)で,きれいに刈り込まれたシバ草原になっていた.おじさんは,そこに生えていたヒガンバナを指して「このたこいも,いまはひがんばないうけど,これは毒があっさかい牛にはやれん」というような話をされていた.たこいもという聞き慣れない言葉にひっかかったので,「たこいもって言ってたんですか」とたずねてみたら,matsut氏のブログにあるとおり,むかし,蛸漁のときに蛸壺の中に入れていたことからそういう名前でよんでいたとのことだった.浜の漁師は,この山間の集落(といっても海からの距離は3kmくらいと近い)に,ヒガンバナの球根を掘りにきていたそうだ.なんとも面白いはなしだったので,へぇーと思って聞いていたが,あとからしまったとおもったことがふたつ.
 ひとつめ.こういった話を聞いたときには,「いつ」「どこで」をきちんと確認するべきなのだった.これは,今年度ぼくのところで卒業研究をやったOさんが得た教訓.聞き取りの情報は時系列に整理して地図の上に落としていくとがぜん面白くなってくる.たこいもの話の場合,このおじさんが何歳くらいのころまでそういうことをしていたのかとか,浜の漁師って具体的にはどのへんの人なのかとか,何月ごろにそういうものを集めていたのかとかを聞いておけばよかった.ほかにも,この集落には漁師はいたのかとか,一回にどれくらい掘っていたのかとかいろんな気になることがある.
 ふたつめ.ICレコーダーもってたらよかったということ.その場ではメモしきれないような細かい話におもしろいパーツがちりばめられている.デジカメを持ち歩くのとおなじくらいの気軽さで,ひごろからICレコーダーも持っておくべきかも.ずぼらな僕にはむずかしいが.(なお,録音の際には,写真をとるときとおなじで,録っていいですかと一言かけるべきで,隠し録りはよろしくない.いうまでもないことだが)
 話を聞いた翌日,少し前に購入した「日本植物方言集成」をみてみた.兵庫(津名)の方言として,「たこいも」の記載があった.ヒガンバナの方言名はすごく多いらしく,数ページにわたって方言名がならんでいる.行数とページ数から計算すると500以上は採録されているようだ.「日本植物方言集成」はすばらしい資料だけど,その語源まではさかのぼれない.それだけに,今回のたこいものような生き生きとした話は聞いていて楽しく,わくわく汁の分泌が盛んになる.こういう話は,人々の記憶があるうちに,できるだけ記録しておくべきだ.