圃場整備

 職場からそう遠くない山間にはまだ圃場整備がされていない棚田がいちめんに広がる場所がある.今日は,そのような棚田地帯へ雨の中行ってきた.
 この地域では,いま着々と圃場整備が進行しているところだ.行政の担当部局の方に話をきいたところ,旧北淡町全体では,圃場整備の進捗は30%程度,そのなかのGという集落(ほんの数年前までかなりよく棚田がのこっていたところ)では今年度で70%が整備完了とのことだ.


 たとえば神戸市は圃場整備率がすごくたかくて,90年代後半にはすでにほぼ100%に近い達成率だったように記憶している.滋賀県では,今森光彦の「里山物語」の舞台になった仰木の里の棚田が,惜しまれながらも四角い田んぼへと変わっていったのが,2000年代の前半だったか.
 いまから10年くらい前,仰木の集落をあるけば「心は丸く,田んぼは四角」と書かれた看板がよく目に付いた.圃場整備の推進か中止かをめぐって住民の間で意見が分かれたりしていたのかもしれない.複数の人の所有する丸い田んぼが集まった場所で整地をやりなおして四角くしていくので,地域での合意が必要な作業.圃場整備をして生産効率を上げたいひともあれば,一方では,なじんできた田んぼをそのままにしたい人もいる.圃場整備は行政が進めていくものだけれど,その益を受けるのが農家であることから,農家が整備のために相応の金額を支払うことになっていて(全額ではない),その支払う金額が整備による増産・増収分に見合わないという話をしばしば聞く(とくに高齢化と後継者不足から,整備後の耕作年数が短いであろう山間部ではペイしない可能性が高いだろう).


 さて,淡路の棚田.すでに関西の大部分で未整備の棚田の景観が失われただけに,これはいってみれば島の宝なのだけれど,やっぱり農家の人は作業しやすい田んぼを望んでいるとのことで,整備は着々すすむ.それによって,風景が変化していくだけでなく,畦に生えている植物のなかから,特定の植物が消えていくという事態も引き起こしている(このへんは松村氏がよく研究しているので彼の業績リストにある論文が参考になる).せめて整備後の圃場の畦に,もとの畦の植物を導入できるのならば,その地域の生物相の保全がある程度できるかもしれない.
 集落Gには国立公園地域にふくまれている場所があって,国立公園地域内の圃場整備では,一部,畦の表土のリサイクルが行われたという話を今日聞いた.その場所の植生をしらべてみる必要があると思う.


 この地域でここ数年急に圃場整備が進んでいる理由は,2004年の台風だそうだ.未整備の棚田は掛け流し湛水式で排水路がない.このため,豪雨のときには排水が追いつかず,大量の水がそこにとどまり不安があるとのことであった.しかし一方では,水田が豪雨をいちど貯め置くことによって下流部の被害を低減するという話も聞く.防災の観点からは,斜面の水田はどうあるべきなのか,科学的な視点から示された知見はないのだろうか.


 ところで,地域の生物相の保全といった名目で圃場整備の際に通常とは異なる工程・工法を採用した場合,その分の工費の増額分は農家の方にきっちり跳ね返ると聞いた(行政のかたから).だから,地域の人はそういうことを歓迎しないという.そりゃ,そのシステムだったら,歓迎しないだろう.工法の変更で「地域の生物相の保全」という益を受けているのはその田んぼを持っている農家の方ではないのだから,工法変更に伴う増額分は,もっとひろーく集めるべき(税金)だと思うのだけれど,なんでそうならないの?それようの補助金とかありそうだが.