靴がマラカス・長靴洗おうキャンペーン

 いつも,砂丘に調査に行くときはゴム長を履いていた.今回はうっかり忘れていったので(うっかりは得意です),ふつうのトレッキングシューズだった.靴が砂でたいへんなことに.靴の中に砂がたまったのだろう,足の裏の異物感がすごい.中敷きの下に靴がたまったのかと思って中敷きをはずしたけれど,そこに砂はない.靴はいろんな素材を何層にもかさねて接着したり縫い合わせたりして作られているけれど,どうやらその層の隙間にはいっていって,靴底の,アクセス不能なところに砂がたまってしまったようだ.靴の一番外側はナイロンメッシュの布地なので,靴全体から砂は入り放題だったらしい.
 帰宅後,靴を裏返しにしてふってみたら,メッシュの表皮全体から,ざらざらざらざら,コップに半分くらいの砂が出てきた.それでもまだ全部の砂は排出されず,靴をふるとしゃかしゃかと音が鳴る.右手と左手にかたっぽず持ってリズムよく振っていたらメキシカンな気分に.この靴から出てきた砂には小さな種子などまじっていてもおかしくない.
 以前から,野外調査をする研究者というのは,生物学的侵入を非意図的に促進しているのではないかと疑っている.とくに,特殊立地の生物を専門としている人は,隔たった場所にある特殊立地から特殊立地を渡り歩く.貧栄養湿地の研究者は,貧栄養湿地から貧栄養湿地へ.砂丘の研究者は砂丘から砂丘へ.こういう運び屋は,特殊立地を選好する植物にとっては,じつにありがたい散布者になってしまうだろう.
 そう思っていたので,今年,学生が塩湿地の外来種の調査を開始したときから,調査の前後に長靴を徹底的に洗うことを実践している.これを「長靴洗おうキャンペーン」と呼んでいる.キャンペーンといいながら,広報はしていない.僕が愛用している長靴はジュンテンドー(ホームセンター)で680円で買ったすぐれものである.なにがすぐれているかというと,安物なのでシンプルな一体構造となっていて,種子がかくれるような中空構造や多孔質部品がほとんど存在していないことだ.靴底の溝に詰まった泥さえきちんと掃除すれば,種子を運ぶ可能性はそうとうに低いと思う.長靴洗おうキャンペーンの首謀者としては,靴本来の機能が少々劣るとしても,洗いやすく種子をはこびそうにない長靴を推奨したい.うっかり忘れていったらなんの意味もないが.ついでに,長靴だけでなく道具は全般に,種子が詰まったり,まぎれこんだり,ひっかかったりしにくいような,シンプルな構造がよいかも.