植生学会 宴のあとレポート

10月7日・8日と植生学会に参加してきた。岡山理科大学が会場。

研究室の学生はどうにかポスターを完成させて持って来ていた。よくがんばったなあ。8月に学会発表エントリーしてから、データの収集、解析、発表ポスター作成まで、一日も無駄にできないタイトなスケジュールを何とかこなした。

学会では、いつものように、いろいろと発表を聞いて、たのしくディスカッションをした。この学会はぼくのホーム学会ともいうべきところ。楽しい。

印象に残った発表など
B6 大出水は大攪乱か という発表がとても面白かった。河川の植生を規定する攪乱の強度に関する研究。出水の規模が大きいときに攪乱強度も比例して高くなる、というわけではないそうだ。ある程度よりも出水規模が大きくなったときに攪乱強度がむしろ低下する場合があるという。どういうことかというと、すぐ下流側の川幅が狭かったりして水が停滞するような場合、出水規模が大きくなっても攪乱強度が下がってしまう。したがって、どれだけ大きな出水のときでも、中程度の攪乱しかうけない立地が存在するということ。で、そのような場所が存在することが、河川に特有の植生・植物を保全するうえで重要だ、コアだ、と発表者はいう。河川改修のやりようによっては、そうした場の特性を変化させ、絶滅の危険性を高める可能性があると。すごく面白くて、圧倒された。

P15 ケカモノハシとビロードテンツキの発芽・定着について調べた研究もおもしろかった。データの取り方、調査区の設定のしかたがいい。ケカモノハシのみの場所・ビロードテンツキのみの場所に加えて、両者混在の場所でもデータを取ることで、単なる場所による影響ではなく、種の特性が反映された分布が見られているのだということを強調できている。ただ、現状のデータでは「汀線からの距離」という要因と「堆砂量」という要因は交絡している。発表者らのサイトの近隣にある中田島の海浜では、ケカモノハシ帯とビロードテンツキ帯が交互に複数回現われていた場所があったように記憶している。中田島で同じ傾向が観察できれば、交絡を消去することができるのではないか。また、ビロードテンツキとケカモノハシの耐乾性の違いを裏付ける実験ができれば、説得力がさらに増すと思う。その実験は、両種の実生を、十分に水分のある条件から乾燥ストレスにさらし、土壌水分をモニターしながら枯死するまでの過程をみればよさそう。

植生を説明するために、構成種の種生態からアプローチする研究は、僕は大好きだ。

P6 伊豆諸島のスダジイに着生する植物の多様性についての発表もよかった。巨樹とその最寄りの小さな(あるいは中くらいの)樹をセットにしてデータを集めている。微環境や種子供給源からの距離といった条件の違いをコントロールしたサンプリング法だ。ちょっとしたことだが、こういう点に気をつけていると、データの説得力が高まるなあ。

夜は懇親会。たくさんの方々と楽しく懇親した。懇親会での会話でも興味深いことがいくつかあったが、それはまた今度書こう。そして、僕はときどき買いかぶられてしまうという、本人にも謎な性質を有しているのだが、今回もまたそんなことが。なんだか大役をおおせつかる可能性がでてきてしまった。僕はほんとうに粗忽で迂闊でダメなので、たいしたことはできないと思うのだが。それでも前向きにがんばろう。引き受けるかどうか検討しますと返事をしたけど、実は外堀も内堀も完全に埋め立てられてしまっているので、もはや選択権はないのであった。

8日のエクスカーションでは、岡山県北部の毛無山。みごとなブナ林。小雨そぼふる中を歩いた。たたら製鉄をやっていた場所で、植生が回復して150年。つまり150年生のブナ林だそうだ。いいところだった。春にも来てみたいなあ。ミヤマハハソの果実はトマトそっくりのにおいがすることに気づいた。身近にミヤマハハソが生えている人はぜひためしてみてほしい。

今回も、植生学会はとても楽しかった。岡山理科大学波田研究室はじめ大会事務局のみなさんに深く深く感謝。

※追記 P15について。「汀線からの距離」は、遡上波の到達頻度や飛塩、土壌塩分濃度、ときには堆砂量など、植物に影響をおよぼしうるいくつかの要因に関わるものであるが、距離そのものが植物に直接的にはたらきかけるわけではない。上の文章のぼくの書きかたは、その点でぐあいのわるい書きかたをしていると思う。