細分化される宇宙

 西宮市貝類館で開催中の特別展「大阪湾の宝島 成ヶ島の自然」を見に行ってきた。西宮市貝類館に行くのは3回目だろうか。こじんまりとした素敵な博物館。日曜の午前中だったからか、ほかにお客さんは2組くらい。のんびりと観覧できた。セミナー室のような部屋1つを特別展の会場にあてている。三方の壁にそって貝殻標本がずらっとならんでいる。
 順路最初はヒザラガイの仲間が11種類くらいつづく。ヒザラガイってこんなにいろいろおったんか。それも大阪湾の一角という身近な場所に。ババガゼやケムシヒザラガイヒザラガイの平均値から外れたルックスが魅力的。いきなりこのトラップにひっかかって、それほど広い展示室ではないけれど、なかなか前に進めない。
 標本ラベルに記載された“採集地の環境”の表現がとても細やかで、貝のハビタットはこれほどまでに微細であったかと感嘆する。ハビタットの書かれ様こそが今回の展示の見どころかもしれない(と思ってたら、この展示をみた友人N澤さんも同じ感想を述べていた)。模様がとても美しいホソスジアオガイハビタットは「転石の裏」と書かれている。ほかの貝で「転石の上」と書かれてるものもあったので、わざわざ裏と書いてあるからには、この貝は転石の裏をすみかとしてるのだろうか。ウミコハクガイでは「半ば埋もれた転石の裏」とあって、「半ば埋もれた」がポイントか。ツバサコハクカノコでは形容句がさらに増え「汽水域の半ば埋もれた転石の裏」と書かれている。宇宙はどこまでも細分化されていく。
 シマメノウフネガイなどはほかの貝の殻の上に住む。そのような貝はたくさんあったが、ヒラフネガイはちょっと変わってて「バイなどの殻の内側」に住むという。標本は、たしかにバイの殻口付近の内側にヒラフネガイが張り付いているものだった。これ、ハビタットごと標本になっている。バイが生きてるうちから軟体部と殻の隙間に潜り込むのだろうか。サワラビガイの採集地の環境はケヤリムシの棲管の上と書いてあり、標本はケヤリムシの棲管とならべておいてある。かっこいい。ネムグリガイは「アマモの地下茎に穿孔」とある。なにそれ細かい。貝たちはハビタット大喜利でもやってるのか。
 砂粒のように小さな貝殻もある。たとえば、チョウセンスナガイは「海浜の小石の裏」、ヤマモトゴマオカチグサは「海浜部の打上げゴミや礫の裏」、キバサナギガイは「海浜部近くの朽木など」でそれぞれ採集されている。海浜の打上げゴミのようなところは、ちょっとした高波でハビタットが壊されたり作られたりを頻繁に繰り返す、とても不安定な攪乱立地。このような「一時的なハビタット」にこれらの砂粒のような小さな貝がどうやってたどり着くのだろう。