マテガイとマッチョゲ

 市の国際交流事業(?)に協力し,ホストファミリーとして,韓国からの研修生を受け入れた.韓国からの参加者は日本に10日間ほど滞在し,関東と関西のあちこちを移動するプログラムで,このうち淡路島でのホームステイは2泊3日.間の1日はホストファミリーといっしょにすごすことになっていた.どんな人が来るのか前日まで不明だった.当日,ソウルの中学校で生物の先生をしているという30歳くらいのおとなしい男性,Pさんがやってきた.生物の先生ということで,ほぼ同業者.お互いにつたない英語だけど,まあそこそこ伝わってたと思う.
 うちでの1泊目の夜.僕は,話のネタにしようと,2012年に韓国へいったときの写真ファイルを開いていた.写真のうち半分くらいが木浦の朝市の写真で,海産物屋の店先の生物多様性に僕はココロうばわれてシャッター切りまくったのだった.Pさんはそれらの生き物の韓国名を教えてくれた.ホンオが出てきたときには,「お.ホンオ!」っていうから「僕,このときホンオフェ食べたよ」と言ったら「えー.食べたん?アンモニアくさいから僕はたべへん.苦手やわ」って言ってた.まあ,苦手な人がいて当然の,人を選ぶ食材だとは思う.僕も1回で十分だった.
 そのときの写真の中に貝屋さんの写真があって,ヘナタリの仲間やらイボニシのなかまやらツメタガイの仲間やら膨大な種類の貝が店先のバケツの中に,種類ごとに入れられているのがあった.マテガイに似てるけどマテガイじゃない貝の写真をみながら話をしていて,マテガイの話になった.いや,たぶんマテガイの話になったんだと思う.Pさんが身振り手振りで教えてくれた捕まえ方とか,ハビタットが干潟だということとか,大きさをざっと示してくれたその縦横比は写真に写っている貝ではなくてマテガイだったので,まあマテガイだと理解して話をあわせていた.で,Pさんはマテガイのことを韓国語で「マッチョゲ」っていう,と教えてくれた.
僕「へー.日本語ではマテガイっていうよ.ガイは貝の意味やで」
Pさん「ふーん.マッチョゲのチョゲも貝っていう意味やわ」
僕「ってことは,日本のはマテ貝で,韓国ではマッ貝か」
Pさん「いっしょやな」
僕「いっしょやな.いぇーい」
Pさん(スルー)
 というわけで,ほんとうに語源がいっしょかどうかは知らんけど,ちょっと気になる類似なので,何年先になるかわからないけど,偶然その意味がわかるときがくるかもしれないので,それを楽しみに,とりあえずマッチョゲとマテガイを覚えておこうと思う.アナゴは韓国でもアナゴとよばれていて,日本語からの外来語っぽかった.そのあと,うちの畑で採れたえんどう豆のスジとりをいっしょにやりながらお話をつづけた.
Pさん「韓国ではエンドウマメのことをワンドゥって言う」
僕「あ,日本でも漢字で書いたら豌豆やから,エンドウとワンドゥはもとがいっしょやな」
僕(っていうか,エンドウマメって,マメが2回でてくるやん.エンドウだけで完結してるのにエンマメマメやん)
僕(Yodogawa riverとかパームやしとかといっしょの,微妙に変な言葉シリーズやったか)
僕(この微妙なおもしろさを英語で伝えるのはむずかしいからだまっとこ)
Pさん「あっ」
僕「どうしたん?」
Pさん「中学校の畑の水やりのことをすっかり忘れてた.出発してから,イチ,ニ,サン,シ,ゴ.5日たってる.しもたー.だいじょうぶかなあ」
 わりと僕に近いタイプの人だと判明した.寝る前にいちど庭に出て星をみた.Pさんは静かさと村の明かりの少なさにおどろいていた.
 
 翌日,1日行動をともにする日.朝から村を散歩して,うちの畑に立ち寄って今夜用の野菜を収穫し,さつまいもの苗を数本植えつけた.それからスーパーマーケットへ.いけすの前でPさんはメイタガレイを見ながら,なにか確かめるような表情で,タテにした手のひら(泳ぐ魚を表す感じ)をゆっくりとヨコ倒しにするのを何回か繰り返していた.たぶん「えっと,こいつは目が右側面に回り込んでるから……カレイのほうか」という確認だったと思う.我ながら完璧なアテレコができたと思った.スーパーをあとにして,生田のそばカフェでそば打ち体験をして,打ち立て湯がきたてのそばを食べ,鳴門海峡へ.中潮だけど,時間帯はちょうどよい.いったん徳島県側へ渡って「渦の道」で鳴門海峡のスペクタクルを満喫.渦の道をでて海岸へ降りる.中潮なのでほんの数十cm程度だが,やっぱり瀬戸内側と紀伊水道側で海面の高さははっきりと違う.おもしろい.