緑化業者の集まりでのお話と,会場からでた質問

 緑化に携わる業者の方,十数名を前に,「自生種緑化」というお題で話をした.最近の緑化事業では「生物多様性(あるいは地域性)への配慮から自生種を使う」というお題目がしばしば聞こえてくるが,実際の所,そうした活動はかならずしも生物多様性への配慮になっていない.では,どうすることがよいのか,という話である.
 話のはじめに,「生物多様性」の概念についておさらいをした.ここで,「地域の中のいきものの豊かさ」だけではなく「地域ごとのいきものの違い」も重要であり,まもるべき対象だということを協調した.「生物多様性」という単語からうけとるイメージに「ゆたかさ」が含まれても「地域差」が含まれないことが多いようなので協調しておくべきと考えた.ここでのキーワードは「まぜるな危険」.
 つぎに,緑化・植栽といった行為において,生物多様性に配慮するとはどういうことかを説明した.緑化・植栽は本来,生物多様性に悪い影響を及ぼしやすい行為であるということを出発点とし,わるい影響がおよんでいくメカニズムを2つ説明した.ひとつは,逸出して繁茂することによる競争的排除,もうひとつが交雑することによる遺伝子汚染(外来種が在来種に影響をおよぼすメカニズムは他にもあるが,緑化・植栽では大きくはこの2つを考えればよいと思う).したがって,緑化・植栽における生物多様性への配慮においては,これらが起きないようにすることが肝心である.逸出・繁茂せず,周辺の自生個体と交雑しないものであれば,園芸種でも外国産の種でも問題はないわけで,「生物多様性への配慮」=「自生種緑化」という発想が短絡的であることを説明した.また,交雑による遺伝子汚染の点から,「出自不明の自生種」はよほど危険であることを説明した.自生種の地域産苗が入手困難な現状では,必然性のない場面では自生種をわざわざ使うことはないのかもしれない.自生種の必然性のある場面については,事例をあげて説明をした.上勝の千年の森,尼崎の21世紀の森,圏央道の地域性苗による緑化.いずれも自前で苗を作っている.
 最後に,緑化の目的が「修景」や「防災」などにあり,そこへ「生物多様性への配慮」が求められているとき,緑化をせずに目的が達成出来る場合があるのではないか,という話をした.既存の植生を保全したり管理したりすることで「修景」や「防災」が達成出来る場合には,それを優先してはどうか.話をしている場が緑化業界の技術研究会であるので,「業界は,既存の植生の保全や管理によって収益を上げられるようなシステムをつくることを考えてはどうか」という言い方をした.そうすることが望ましい例として,淡路島の畦畔草原と,里地の沿道につくられている花壇(道路拡幅の際には,植生豊かな里地でも花壇や植栽帯が作られることが多い)の話をした.
 なお,補足的に,里地での花壇の問題として,侵略的外来種の足場となることは説明した.しかし,「花壇」をつくることで既存の植生を壊していることについては,説明するべきだったかもしれないが,それは言うのをわすれていた.


 質疑応答では,つぎのような質問がでた.いくつかはFAQ.
 ・自生種ってそもそも何?何が自生種かって,どうやって調べたら分かる?
 ・緑化に用いる植物で,どれが逸出・繁茂しやすいのかは,何を見ればわかる?一覧表はあるのか?
 ・市民参加の里山管理のコーディネイトをしているが,桜などの花木を植樹したいという意見もでてくるので,結局のところ桜などの苗を購入することがある.このような場面ではどうするべきか.
 ・圃場整備の際に,畦畔草原に配慮している事例はあるか?
 ・整備後の圃場に,整備前の畦畔草原の植物を回復させる手法はあるか?
 などなど