ユビキタス鍵

 一月に一度,あるいはもう少し高頻度で,家や車やバイクのカギが見つからなくて出発できず遅れそうになる.カギがないという状況に気付くのはたいてい出発する瞬間であり,出発する時刻にはカギを探すオプションは想定していない.オプションを行使した分だけタイミングが遅れ,場合によってはバス1本を逃す.ほんの1分差でバスを逃したとしても,次のバスは29分あるいは39分後までやってこないから,遅れは増幅する.バス停で29〜39分もバスを待つような時にかぎって,読むべき本とか進めるべき仕事がカバンに入ってなくて,あほみたいにぼーっとしているか,バス停の雑草を片端から同定していくか,バス停の雑草群落で虫を探すか,それくらいしかやることがない.スマホでもあればついーととかで時間を殺せるのかもしれないけれど,スマホもついったーのアカウントももってない.それで僕はバス停の雑草について他の人よりは詳しいと思う.
 こういう話をすると「カギを置く場所を決めておけばええねん」と,屁ほどの役にも立たないアドバイスをくれる人がある.こういうアドバイスをする人はたいていダメ人間じゃない方の人なので,我々の種族のことをぜんぜん分かってない.まず言っておくと,ダメ人間もカギを置く場所くらい決めている.毎日ちがうところにカギをおくような,そんな創造的でしんどい生活をするわけない.カギを置く場所は決めてます.それでもカギがみつからないのは,決めた場所にカギを置くという高度なワザを持続できないからだ.ほとんどの日は決めた場所に置ける.しかし,5回に1回くらい失敗する.そんなときでも,翌朝ちゃんとイレギュラーな場所からカギをとりだして出かけられるけど(たいがい洗濯カゴのズボンの中にある),決めた場所におきそびれたうちの5回に1回くらい(全体として25回に1回くらい)はどこにカギがあるのか皆目見当がつかないという非常事態が発生する.
 こういうことを繰り返していて,ようやく解決方法をおもいついた(いままで解決しようとすら思ってなかった).カギを増やせばいい.家にも職場にも,家と車とバイクとバイクの錠の合い鍵を決めた場所に常備しておけばいい.そうすれば,あ,カギがない,というときでも常備された合い鍵でその場をしのげる.