やまたつひめ
淡路島のため池に根ざした生活文化を調べているN君,秋頃の聞き取り調査で,淡路市の中山間集落に住むおばあさんからハメに噛まれないためのおまじないを聞いてきた.ハメとは,淡路島の言葉でマムシのこと.
そのおまじないはこんなの.
われいくさきに かのこまだらの むしはあば やまだつひめと かくぞしらさん あびらおんけんそわか
※これを7回くりかえす
マムシがいそうな草藪をあるくときにこのおまじないを唱えてから行けば噛まれないという.分かる部分を漢字まじりで書くと「我れ行く先に 鹿の子斑の 虫這わば やまだつひめと かくぞ知らさむ」だろう(あびらおんけんそわかは大日如来信仰の呪文).おばあさんは母親からこのおまじないを教わったそうだ.
“鹿の子斑の虫”はマムシのことを指していると思う.あの銭形模様を鹿の子斑と見ることはできなくはない.
よくわからないのは「やまだつひめ」だ.N君はググってみたそうだが,それでもわからんかったという.それならと濁点をとって「やまたつひめ」で検索してみたところ,その結果はちょっと気になるものだった.
ググっていちばん上に表示されるサイトがこれ→(http://d.hatena.ne.jp/hoshikuzu/20091221).このなかにこんな一節があった.
奄美大島ではハブ除けのマジナイがいくつかあるのですが、その中に、「やまたつひめ」や「やまたつひめかみ」という謎の存在が登場します。ハブ除けに神威がある超越者として位置づけられているようです。少なくとも今日現在、Googleで検索してもヒットしないようではあります。
(hoshikuzu | star_dust の書斎,2009-12-21)
さらにそのページの下の方にはこんな一節が.
祝女ではなく、一般人の、ハブ除けの呪言は以下のとおりとのことです。
しかぬこまだらぬ
虫あれば
やまたつひめに
かくと知らさん 儀法
と唱えて、山や畑にはいるとのこと。
奄美大島物語、文英吉(かざり えいきち)著 より。
琉球では母音の「お」が「う」に変化するから,「鹿の子 斑の 虫あれば やまたつひめに かくと知らさん」と書けそう.おどろいたことに,淡路島のおまじないとほぼ同じだ.マムシのいない奄美では“鹿の子斑の虫”はハブかヒメハブを指すのだろう.
奄美大島と淡路島でこんなにそっくりなおまじないがあるのはなんでだろう.
こんな離ればなれのところにそっくりなおまじないがあるのなら,その途中にも似たようなものが各地に点々とありそうな気がするが,ググっても上記サイト以外には情報がないのはなんでだろう.
そのおばあさんのお母さんが奄美から淡路に来た人なのだろうか.
どんどん膨らむ謎と疑問.複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れて,徹底的に究明してもらいたい.
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