ヨシ原で大切なものはヨシだけじゃない

 淀川,鵜殿の真上を新名神高速道路が通過する計画がすすんでいるらしい.8月5日の東京新聞が報じている.
 雅楽 存続ピンチ 篳篥用ヨシ原 真上に高速道建設へ
 いずれ消える記事だろうから,下に引用しておく.

ユネスコ無形文化遺産で千年を超える歴史を持つ雅楽に欠かせない楽器、篳篥(ひちりき)に使う天然のヨシが危機にひんしている。篳篥用ヨシの唯一の産地、大阪府高槻市の「鵜殿(うどの)のヨシ原」の真上に、新名神高速道路の建設が決まったためだ。
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 ヨシ原は淀川河川敷に広がる約七十五ヘクタールで、甲子園球場の十八倍。ここで平安時代から採れるヨシの茎が加工され、篳篥の吹き口「蘆舌(ろぜつ)」になっている。江戸時代の古文書に鵜殿のヨシが最高と記録があり、宮内庁の楽部もここで採れたものだけを使っている。
 篳篥奏者の東儀秀樹さんによると、茎が太く、肉も厚く、繊維の密度も高く、世界で唯一の質。ここのヨシでも素材として満足できるものは千本に一本程度しかなく、他の場所のヨシでは代替はまず不可能という。
 国土交通省淀川河川事務所の淀川環境委員会委員、小山弘道・元大阪市大助手(植物生態学)によると、鵜殿には高さ五メートルもの太いヨシが、地下二メートルの肥沃(ひよく)な黒土に根を張っている。「大都市圏でこれほど保全されているのは奇跡的」という。
 小山さんは「工事が始まれば、ヨシの生育に欠かせない水を供給しているポンプは止められるだろう。害虫駆除のためにヨシ焼きが行われているが、真上に高速道路ができれば車の通行を妨げる煙害となり、焼けなくなる」と心配する。環境が変化しヨシ焼きができなくなれば、二、三年でヨシが全滅する恐れがある。
 新名神高速は無駄な公共事業として凍結されていたが、国交省は今年四月に着工を決断。これに対して宮内庁楽部は五月、「現地の保全と環境への配慮」を要望した。六月には首席楽長らの連名で「雅楽篳篥のヨシを守るために」という声明を出した。
(以下略)

 このヨシ原には,以前,Uさんに連れて行ってもらったことがある.淀川で氾濫原の植物が自生する特殊な場所.また,関東平野のごく一部と鹿児島県馬毛島とここだけに分布するシダ植物,利根花鑢の産地である.都市に残された草原として他にもさまざまな動植物を育んでいる.記事ではヨシのことしか触れられていないが,ヨシとともに生きるその他の生物を含む生態系として特殊で貴重な場所だ.18甲子園の広さがあるならその一部が改変されてもいいじゃん,じゃなくて,その広さが維持されてることも重要だ.広さによって支えられている生物があるのなら(猛禽とか),広いことに保全すべき値打ちがある.
 篳篥の蘆舌の代替産地がない,というのは信じがたい.同等の品質のヨシは他所でも得られると思う.品質面で代替できるヨシがないからここが重要なのではなく,平安時代からの産地であるという伝統的文化的な固有性が重要なのだろう.篳篥に関しては,物質的な意味より精神的な意味で鵜殿のヨシ原が大切.だからこそ代替地はない.んじゃない?
 なんにせよ,ここを高速道路が通るのは避けて欲しい.新名神の幅広い橋の下では利根花鑢やノウルシのような明るい環境をもとめる植物は生きていけなくなるだろう.記事で触れられている野焼きの廃止があるとしたら,これらの存続はほとんどむり.橋脚の影響は光だけじゃない.雨があたらないことも問題だ.雨は植物に水分を供給するだけじゃなく,葉っぱを洗う働きがある.葉っぱが雨に洗われずホコリだらけになることは,高架下で植物がそだちにくい理由の一つ.
 鵜殿のどのあたりをどのような構造で通過する計画なのか知りたい.また,新名神は設計速度が高いために線形変更が困難なので,保全対策をとるとしても,どのような手法が考案されるのかが気になる.
 それにしても,すでに名神高速京滋バイパスがあるのに,さらに新名神がほんとうに必要なのか.そりゃ,できたらより早く通れる方を使うから,きっと新名神はたくさん車がとおる道になるだろうが,その分,京滋バイパスは閑散とするだろう.「震災時の交通確保」といえばなんでも通る雰囲気がよのなかにはあるの?