海とため池

 淡路島では数年前から,漁業者がため池のカイボリを手伝う,という動きがある.沿岸の海がきれいになった(栄養塩類が少なくなった)ため,海苔養殖の生産力が落ちている.一方,過疎化・高齢化のためにカイボリができない池が増えており,池底には大量の泥が貯まっている.海に施肥をするのは法に触れるが,ため池を浚渫して底泥を川から海へ流すことは問題がない.そこで,少しでも海に栄養塩を流したい漁業者がカイボリを手伝うようになった.
 県の農林水産振興事務所はこの動きを支援しており,このたび,漁業者と農業者の意見交換会を企画した.僕はその会合の場で地域のため池の現状について話題提供をした.内容は,昨年うちの研究室にいた学生T君の修論に基づくもの.
 僕は池側の話題提供をして,徳島大で講師をしておられるNさんが海側の話題提供をした.Nさんの話がものすごく面白くて,また,質疑応答ではたいへん建設的かつ具体的な意見を述べられており,こういうのを僕は目指したいのだ,と思った.目指したいのによく忘れている.この視点は,コンサルの人と話をしていると思い出させてくれることが多い.
 意見交換会では,漁業者からも農業者からもさまざまな意見がでた.農業者は「むかしはカイボリで泥を流したら怒られてたのに,堂々と流せるようになった」という意見.漁業者からは「むかしは海苔のたねつけの時にカイボリの泥が流れてきたので文句をつけた.その時期でなければ大丈夫.また,今はたねつけやノリ網を扱う技術がすすんでいるので,少々の濁水は大丈夫」といった意見が聞かれた.カイボリの現場の声も興味深いものが多かった.カイボリをながくおこなっていないため池では,2m以上も泥が堆積し,池の底樋が埋没しており抜くことがままならない,とか,何年もカイボリをしていないために農家がカイボリの手順を忘れてしまっている,とか.まあ,いろいろと興味深かった.