通勤途中,路肩に鳥の屍体がころがっているのをみつけた.トビかな.損傷はげしいからスルーしよう.そう思っていちど通り過ぎたが,どうもトビにしては白っぽいし,足がけぶかいように見えた.気になったので戻って確認したらフクロウだった.(注意.「続きを読む」を押すと,ややグロい写真がでてきます)


 この屍体をどうしよう.ちょっと観察してみたい.それで左手にフクロウを持って出勤した.

 M2のFさんが「あ,それ拾ったんですか?昨日の朝からおちてましたよ」という.なんと.そんなに前からあったのか.さすが冬.一日たっているけど,ぜんぜん臭くない.
 午後,こういうのが好きそうなM1のK君が研究室に現れた.ちょっと時間があったので(本当はヤラネバが山積しているが,時間があったということにして)いっしょに観察することにした.
 まず屍体全景.胸やももの肉はない.内臓はまったくない.頭骨は破損していて脳みそもすでにない.上の嘴は折れている.右の翼もない.左の翼はほぼ原型を保っているが,上腕骨が砕かれている.しかし,それ以外の残っている部品は,羽毛をむしられてすらおらず,ほぼ原型を保っている.車のタイヤで踏まれたような跡はなかったし,ぺちゃんこにつぶされている部分もなかった.いったい何があったのだろう.車に衝突したか別の理由でともかく路上に落ちたのはまちがいのないところだろう.そして路上に落ちていたところをなにものかが食べた.上腕骨が砕けていることから,それなりに噛む力のある生き物が食べたように思う.頭骨もそのなにものかがかみ砕いたのだろうか.それとも,車に衝突したときに破損したのだろうか.

 まずは観察しやすいように掃除しよう.そうおもって作業を始めたが,なんか夢中になりすぎて,各部の計測をしわすれたまま気がつけばばらしはじめていた.反省.
 まず翼と尾羽を胴体から切り離した.翼は雨覆,初列・次列・三列風切がよくわかる.風切を開いて羽ばたいてみた.打ち下ろしは大きな抵抗があるのに,引き上げではほとんど抵抗がない.上腕骨の断面はみごとに中空だ.

 つぎに両脚を膝関節のところで切り離した.その際,間接を曲げ伸ばししてみたが,じつになめらかにうごく.ミゾとボールがあってベアリングのようだ.足の指は,第4趾が後ろ側にまわりこんで,前後2本ずつになっている.いかにもフクロウ類の足だ.長く鋭い爪がかっこいい.まるで恐竜.


 
 脛骨のまわりには肉がたっぷりついていた.皮を踵のところまで剥いて脛骨のまわりの肉をこそげていくと,脛骨の前後に腱がでてきた.腱はグラスファイバーのような硬い繊維だ.骨の前側の腱をひっぱったら,指がぴーんと伸びた.骨の後ろ側の腱をひっぱったら,指をぐっと握りしめた.
 その間にK君は頭の皮を頭骨からはがし始めた.首から下の皮は発見時にすでに失われていたので,とっかかりはすぐにみつかった.しかし,頭骨がぐちゃぐちゃに壊れているので,剥がす作業がやりにくそうだ.ゆっくりと剥いていった.その作業中に,フクロウの耳と思われる穴をみつけた.

 嘴をひらくと舌があった.舌には喉の奥に向かうトゲがびっしりと生えていた. 

 
 この屍体は,損傷が激しいとはいえ,この集落にフクロウが生息していることを示す標本だ.保存したいので,頭の皮や脚からは,腐りやすそうな肉とか脂肪をなるべく取り除いた.尾羽と翼は肉がほとんどなさそうだからそのまま.ともかくぜんぶ乾燥させよう.胴体部分の骨はどうしようかなあ.肋骨はくだかれているが,それ以外の部品はちゃんと残っていそうだ.ゆでるか.