バズワード化する「生物多様性」

 1ヶ月ほど前,生物多様性関連の会議に参加した知り合いが「生物多様性理解の多様性がみられた」という感想を述べていた.
 たしかに,生物多様性条約COP10の年になって,「生物多様性」という言葉が世間に広く浸透していく一方で,その概念が拡散していると感じる.いや,実は,もともと生物多様性の概念は広く,僕の認識がその局所しかみていない,という可能性ももちろんあるが.
 生物多様性保全は,その(生物進化の)歴史性と(それにより育まれた)固有性を尊重し,それを次の世代のヒトへと引き継いで行くヒトの営みだと僕は理解している.つまり生物多様性のキモは歴史性と固有性の尊重だと思う.が,最近,これとは異なる「生物多様性」をときどき目にする.
 3ヶ月ほど前,ある友人と居酒屋で飲んでいたときに「歴史性と固有性」を外した文脈での生物多様性という言葉をめぐって議論をした.僕自身は,歴史性と固有性を包含しない“生物多様性”が多用され,それが世間に浸透すると,生物多様性の概念が正しく理解されなくなり,いずれ,生物多様性という言葉で生物多様性を守ることはできなくなるだろう,という危惧を感じていて,だからこそ歴史性と固有性にこだわってこの用語を使うべきと考えているし,それをはずした文脈での生物多様性にはむしろ異議を唱える必要があると考える.が,そのときいっしょに飲んでいた友人はそれとは異なる考えを持っているようだった.(彼とはその後,居酒屋談義の延長戦をメールで展開し,彼のいわんとすることはまあわからんでもないのだけれど,やっぱり歴史性・固有性を外した生物多様性には違和感を感じる).

バズワードについて
"A buzzword (also fashion word and vogue word) is a term of art or technical jargon that has begun to see use in the wider society outside of its originally narrow technical context by nonspecialists who use the term vaguely or imprecisely."
http://en.wikipedia.org/wiki/Buzzword より)