えらい休日(近所の農家のおじいさんバージョン)

 岐阜から来てくれた友人の車にのって、うちの近所の風光明媚なところや、味わい深い狭い農道などを案内してまわっていた。傾斜のきつい狭い農道を走っていると前方になにやら様子のおかしな光景が展開されている。近づいてみると、それは横転したトップカーで、横転の際に投げ出されたおじいさんが、いままさに、トップカーによりすがりつつ立ち上がろうとしておられるところであった。
 えらいこっちゃ、と友人と僕でかけよって、声をかけた。どうにか立ち上がることができた様子だが、動転しておられるのか、頭をうっているのか、返事をしてくれない。いや、淡路島でおじいさんに話しかけるとときどきあるのだが、ものすごくシャイで、返事をするのがもともと苦手な方なのかもしれない。が、とりあえず意識はしっかりしているようだ。はじめは片足立ちで立っておられたので、足を折っているかと心配したが、ひきずりながらも歩けるようだ。額や手の甲などから出血があるもののかすり傷程度だ。横転したトップカーから投げ出されたわりにたいした怪我でなかったのは不幸中の幸いだ。
 横転したトップカーの荷台には、自走式の農薬散布機がくくりつけられていて、タンクからは農薬がこぼれだして流れている。とにかくこの農薬散布機を下ろさないことにはトップカーを起こすことはできそうにない。僕と友人で荷紐を解いて農薬散布機を降ろそうとしたが、運悪く結び目がトップカーと地面にはさまれてしまっていて少しも緩まない。もう1人くらい人手がないとびくともしない。しばらくしたら、都合よくバイクツーリング中の若い男女がとおりかかったので、声をかけて手伝ってもらうことにした。よくもまあこんな道路地図に出ていない道を走っているものだ。さすがツーリングの人だ。いや、ありがたい。
 4人がかりで農薬散布機を下ろし、トップカーの車輪を地面につけた。後側の2輪は事故の際に道路側溝をまたぎこしてしまっていたので、これを人力で吊り上げて道路にもどした。トップカーは大人2人程度で車輪を浮かすことができるほど軽いのだと知った。
 おじいさんとトップカーと農薬散布気をおじいさんの家までお送りした。一人暮らしだったら大変だなあと気をもみつつ行ってみたら、大型連休で里帰りをしている風の若い人が3人ほど、おじいちゃんどないしたん、と出てきたので、坂道でトップカーごと横転していたことをお伝えした。頭をうってるかもしれないから病院にいったほうがよいと言っておいた。あとはなんとかなることだろう。

 現場の農道は急坂のカーブで、カーブ外側が切土法面になっている。横転現場のやや上方にスリップ跡が5mほど続いていた。おじいさんはおそらく、坂を上っていたのだと思う。その途中、何らかの理由でトップカーが推進力を失い、急傾斜のカーブをなすすべもなくバックで滑走し、道路側溝を飛び越えて、カーブ外側の法面に車両ななめ後方から乗り上げて横転したのだろう。おじいさんのトップカーはかなり年季のはいった代物だったが、クラッチはすべってなかったし、エンジンの始動性も良好だった。そっちはちゃんと整備されてるみたいだ。しかし、タイヤは、山は残っているものの、ひび割れだらけで硬化しきっており、コンクリート舗装の坂道では(ドライなのに)グリップしにくいような状態だった。中山間地の農家の景気がもっとよかったらええのになあ、と思った。そういえば、そのトップカーの正面には「公道走行不可」のステッカーがあったけど、農道はよかったんやったっけ?

追記:トップカーというのはこういう形の運搬車のこと。「トップカー」でググッても役立つ情報はほとんど出てこないのは、トップカーという呼び名が一般的でないからだろうか?そういえば、慶野松原あたりのおっちゃんは、トップカーのことを「パンパン」と呼んでいたような気がする。