ザゼンソウ,ミズバショウ,大カツラ,エドヒガン古木

 演習の授業で但馬へ.兵庫県の但馬地方では,大笹というところにザゼンソウの隔離分布があり,加保坂の蛇紋岩地帯にミズバショウの隔離分布がある.ほかに,天然記念物のカツラの巨木,エドヒガンの巨木がある.これらの観察(植物そのものの観察と,地域資源としての活用についての観察)を目的とした授業.朝8時半に学校を出て,夜8時半に学校に戻る.12時間コース.


大笹のザゼンソウ
 保護区として囲いをしている範囲のそとにもたくさん生えている.このため,直接さわったり,臭いを嗅いだりしながら観察ができる.すべての個体を囲ってしまわないので,こういうたのしいことができる.出てきて間もない個体は柱頭がみえる(1枚目の写真).咲いてから時間の経った個体は葯が出ていて仏炎苞の中は花粉にまみれている(2枚目の写真).雌性先熟だ.
 

 大笹では気になることもある.ここはもともとはミズバショウの自生がない場所だが,ザゼンソウ群落から少し離れた山中にたくさんのミズバショウを植栽しており,これを観光資源としている.植栽地から逃げ出したのか,あるいは意図的に植えたものか,ザゼンソウの群落内にもミズバショウは少数だが混じっている.このミズバショウをどう評価するか,を学生のレポート課題にしてもよいかと思っている.


加保坂のミズバショウ
 大笹から山を下ってもういちど登る.バスでだいたい50分.そこが蛇紋岩地帯の加保坂.ミズバショウの隔離分布地である.とても狭い範囲に局所的に生えている.これより西/南にミズバショウは分布がなく,これより東は岐阜県まで分布がない.よその個体群とは交流がないので,遺伝的に独特の個体群なのだろう.生育地の環境のせいか,遺伝的特性か,サイズが小さい.

 アカマツの疎林の林床,一見乾いているように見えるが,ごくわずかに低くなった谷状の筋に沿って生育がみられる.この筋にはミズゴケなどもあり,地表面下のごく浅いところを水が流れているようだ.
 天然記念物として保護し,木道を整備して世の中に出したのが30年くらい前だ,と解説のおじさんが言っていた.現在の管理は,年1回,秋に草本を刈り取る(現場に残置せず持ち出す)のみ.木本の伐採はしていない.世に出した30年くらい前には,もっと木が多く,うっそうとしていたという.ではそれがもともとの姿かというと,違うかもしれない.古い地形図(明治33年ごろや戦後すぐのもの)をみると,この辺り一帯が草原である.むかしは放牧地がこのあたりの尾根にはあったそうだ.いまでも放牧地のなごりの石垣(膝上くらいの高さの石垣)の列が林内にのこっているところがあるらしい.放牧だけでなく,牛のための草の採取もやっていたそうだ.ただし,ミズバショウ自生地については得体の知れない沼があるとの言い伝えがあって,あまり人が入らない場所だったそうだ.