自然観察指導員講習会

 NACS-Jの自然観察指導員講習会に講師として参加した.会場は六甲山のYMCA,標高700m.2泊3日の講習会のうち僕の受け持ちパートは2日目午前中の約3時間.受講者は3班に別れていて,僕は50分間の講習を3回繰り返した.
 11月10日の下見のあとでひねり出した講習内容は「木を見て森を見る」と題するもの.森林で樹木の簡単な観察・調査をし,その森の来歴を推測したりその森の将来の姿を想像したりしよう,というものである.
 観察項目は,最上位の優占種,階層構造,高木層〜亜高木層の樹高と胸高直径,高木〜亜高木が単幹か株立ちか,高木層優占種の活力,高木層優占種の幼樹が下層にどのくらい存在するか,その他の樹種の幼樹がどのくらい存在するか,林床の明るさやリターの厚さなど.今回の現場は,アカマツ林だったので,アカマツの樹齢を外観から推定することもやった.もちろん観察結果だけで来歴や将来を考えるのは限界があるので,植生学や生態学のつみあげた知見も紹介しつつ活用した.
 観察の結果から,少なくとも50年生以上のアカマツ林であると推察できた.胸高直径が35〜50cm程度であることから,里山林より太く,自然林より細いことを確認した.原植生は,植生学の知見に照らしてカシ林からブナ林への移行部と推定し,近所にイヌブナやオオカメノキが生育していることはその傍証とした.林内の幼樹の不在,周辺にブナやカシが不在,草本層のミヤコザサの繁茂,イノシシの痕跡などから,放置してももとのカシ林やブナ林へともどる気配は感じられず,おそらく現状からアカマツが欠落してコナラやリョウブの優占林となるだろう,という予測をした.
 調査地は,地形がおかしくて,谷をせきとめるような盛り上がり地形.昔の製氷池(六甲山には昭和初期ごろまでは製氷池や氷室があった)の堤防だった場所だそうだ.ということは,もともとは草原だったが,おそらく池として使うのをやめてから堤防の刈取り管理がおこなわれなくなり,谷の両側斜面などから木本が侵入して,森林へと遷移した場所なのだろう.
 けっこうむずかしめの内容だけれど,なるべく分かりやすくするように配慮した.授業でもそうだけど,プレゼンでいちばん大切なのは,わかりやすさだと思うから.そのために,受講者全員とまんべんなく対話しつつ説明を進めたり,手を動かす作業を随所でやってもらったり,説明の流れをできるだけシンプルに,入れ子構造にならないようにならべたりした.これらのことは,とても基本的だけれど,意識してやるのとやらないのではずいぶん違うものだと思う.