圃場整備での畦畔草原の保全

 今年度から来年度までの2か年で圃場整備が行われることになっているI集落は、島内でも指折りの優れた棚田景観がひろがっており、また、農村の生物相が大変豊かな地域である。今年度のはじめにここの圃場整備について、環境への配慮として畦畔草原の保全ができないかと行政の担当部局に問い合わせた。4月に行政との打ち合わせを行い、圃場整備の内容を伺った。設計は(当然ながら)完了していて、あとは工事をするだけ。設計の変更はこの時点では当然無理。できるとしたら畦畔法面の緑化方法で、表土リサイクルなどの可能性はある。ただし、地元の要望で、基本的には抑草のためにセンチピートグラスで緑化する。環境への配慮については、学校と土地改良事務所と地元との協働でなにかしらのことを実現していきたい、ということとなった。
 そこで、勤務先大学院の授業のうち数回をここでの活動に充てることとした。
 まずは5月、学生たちと工事がはじまったばかりのこの地区に入り、畦畔のフロラ調査を実施した。保全対象とするような畦畔の有無を確認し、それが集落内のどのあたりにあるのかを把握することが目的だった。この時点ではほとんどの畦畔がまだ工事着手前だった。植物を勉強し始めの学生たちによるフロラ調査の結果、草原生植物の多様性が高く、外来種が少ない畦畔は、集落の上流側に分布している傾向が見受けられた。集落中心部の畦畔は意外と外来種率が高かった(のちに、この外来種率の高さは牛の飼育をしていることと関連していることが地域の方への聞き取りで判明した)。保全するなら集落の上部の畦畔だと決まった。
 6月の授業では、行政の担当部局の方、地域の農家の方といっしょに、種の豊かな畦畔を見て歩き、この畦畔草原を圃場整備後の畦畔に移植することを提案し、一部の畦畔で表土リサイクルを行うことを了承していただいた。5月の調査時にも地域の方へのあいさつはしており、調査目的も伝えていた。行政の方からも地域の方へ連絡が入っており、地域の方が保全のことを前向きに考えて下さってありがたい。中山間の農家の方の除草負担がたいへん大きいことが分かっているだけに、これはほんとうに感謝すべきこと。工事は5月よりもずいぶん進んでいて、学生たちは風景のかわりっぷりに驚いていた。
 そして今日、工事が進む工事現場で、行政の担当者といっしょに具体的に表土をはぎとるべき畦畔を確認する作業をした。1年生の学生は別の先生の必須科目があって来れなかったが、2年の学生で興味のあるものがついてきた。棚田のあぜ13本を見ていくと、あぜごとに外来種率や、保全対象とする種の豊かさなどで違いがあった。13本のあぜのうち3割くらいがぜひとも残したい植生をもっていた。これらが13段のうちの上部に集中していた。工事業者にも来ていただいて工事行程をたずねてみた。切り盛りを伴う土地造成は「上からついていく」のが基本なのだと教わった。だとすると、上部の畦畔表土をリサイクルするには、剥ぎ取り後にしばらく保管する必要がでてくる。できれば、保管期間なしで、剥ぎ取り後、できあがってる法面にすぐに貼りつけたい。そのへんの話をして、いっしょに図面をながめてみる。これから造ろうとしている圃場では、中段付近を横断する道路が1本ある。これをみた業者の方が、「この道路あたりの造成を先行することはできると思う」と言ってくださった。それであれば、中段の法面を造成後に上段の表土を剥いですぐに貼りつけることができる。本当にその行程ができるかどうかは持ち帰り検討してもらうこととなったが、うまくいけば上部の表土をリサイクルできそうだ。今日の作業では図面上に畦畔の保全適否を書き込んでいったが、現場の畦畔に直接テープなどでマーキングすべきだった。ピンクテープやピンポールを大量にもってきたらよかった。これも勉強。
 今回の保全対策は、工事開始年からの参画なので、植物にとっての最良の手が選べない状況で行っている。早い段階で参画できれば、移植時期や残し方などでもっとよい方法を選べる可能性もあったとは思う。でもそれは今後のための教訓であって、いまやるべきは、この場所でいまからできる最善の方法を選択していくこと。気になることはいくつもある。全体の工事行程上、表土の移植は8月から9月に行われる可能性が高い。植物の移植にもっとも適さない時期だ。本当は冬がよい。そもそも畦畔草原の表土を重機で転圧して植物がでてくるかどうかもわからない。また、法面の傾斜をつくった後にその上に表土を張り付けるので、表層が滑ることがないとも言えない。今回は大規模には実施せず、あくまでも実験として行うほうが失敗したときの痛手(今後の保全への忌避感がうまれるなど)を避けられる。
 とりとめもなく書いてるが、半分は自分用の覚書。まずは、いまからできることを考えながら実施し、やってみることで学べることを学ぼう。次年度工事区によい畦畔があれば、そこだけでも冬場に移植してもらえるかもしれない。できることをやってみてモニタリングをしていこう。